Thursday, December 26, 2013

ミオトニー症候群

(元記事は2010年7月10日投稿)


先日とある理由により右太ももを切開したという話をしましたが、それの続きです。
この切開なんですが、別にケガしたとか言う訳じゃなくて、筋肉を一部切除して分析するためでした。

実は私、10歳ちょっと位から、なぜか体の筋肉が一度縮むとしばらく弛緩しないという状態で、運動をすると頭痛や吐き気をもよおしたり、落ちたものを拾おうとするだけで肩やら腰やらを簡単につってきたんですが、最近これが一部更に悪化して、ほぼ一日中目眩やら、慢性的な疲労で日中も眠気が収まらないやら、さらに暗い所でものが見えづらくなり、膝に力が入りにくくなったりと、変な事続きでマキに病院で見てもらった方がいいと言われて、車で片道1時間半程度のポートランドにあるオレゴン・ヘルス・アンド・サイエンス大学(Oregon Health and Science University: OHSU)へ出向いて専門家の人に見てもらう事にしました。

で、体に電極を刺しまくって電気ショック食らいまくったり、別の電極を刺して筋肉の中の電気の流れを音で聞いたり、足を切り開いて筋肉を切り取ってみたりと、理科の実験で出てくる哀れなカエルさながらに実験しまくった結果、どうやらやっぱり筋肉がおかしいという結論に達しました。

ですが、どこがどうおかしいのかというと、実は詳細な部分は分からないままです(筋肉の顕微鏡等で確認できる範囲では分かりましたが)。

なぜかというと、この病気(障害)、報告例がもの凄く少なく(確率的に言うと0.001%程度の人にしか発症しない)、実態自体がほとんど分かっていない為です。

直接の原因になっている事は、どうやら筋肉の細胞間を行き来する電解質の一部が、遺伝子の突然変異により細胞膜で遮られてしまい、神経が筋肉を上手く制御できなくなる事だそうです。
しかし、その症状は人によって実に様々で、まぶたが上手く動かせない程度の人がいれば、心臓の鼓動や呼吸すらも困難になる人もおり、発症時期も生まれたときからおかしい人もいれば、二十歳を超えて初めて出てくるような人もいます。

症状、発症時期、遮断されてしまっている電解質、変異の起きている遺伝子によって病名が変わり、パラミオトニー症候群(paramyotonia congenita)、周期性四肢麻痺症(periodic paralysis)、カリウム惹起性ミオトニー症候群(Potassium-aggravating myotonia)、トムゼン病(Thomsen's disease)、ベッカー病(Becker's disease)、筋ジストロフィー(DMPK myotonia)となり、グループとしてまとめてミオトニー症候群(myotonia)、もしくはさらに大きなくくりでチャネル病(channelopathy)と呼ばれます。

このうちトムゼン病とベッカー病は塩素イオンが上手く伝達されず、筋肉が一度収縮すると弛緩されるまで時間がかかるもので、これとその他大方の症状を含めて私のものとほぼピタイチで重なります。実際、今回会って話をした先生方から指摘されたのもこれです。

発症時期がトムゼン病は幼少期(誕生前から生後数ヶ月程度)、ベッカー病は比較的遅い少年期(10歳前後)で症状はベッカー病の方が重く、トムゼン病は筋肉の異常発達(muscle hypertrophy)と筋弛緩の遅れがほとんどのようですが、ベッカー病の場合はトムゼン病と同じ症状の他、人によっては筋肉が年とともに筋肉の一部が失われたり関節が変形して歩けなくなるという事もあるそうです。

私の場合、発症時期が中学時代で大体12歳くらいでしたから、発症時期から言うとベッカー病になります。発症する場所も足が先らしいので、これも私のものと重なります。

ところがこれだけでは上手く説明つかない点がいくつか私場の合にはあります。

まず、親戚を見渡しても、同じ症状をもつ人がいない事です。

ベッカー病は劣性遺伝型なので、私の両親ともに遺伝子に同じような異常がないと発症しませんが、親戚中を見渡しても同じような症状を呈する人がいません(せいぜい弟が同じように体をつりやすかったという事だけです)。

次に暗い所で物がよく見えない点ですが、検診の結果、私はほんのわずかにながら白内障を患い始めているという事が分かりました。

この白内障、私の場合はちょっと一癖あって、普通の白内障が全体的に白く濁ってくるのと違い、虹彩に沿って自転車のスポーク状に白くなり始めており、これは筋ジストロフィーか、それに近いシュワルツ・ヤンペル症候群でしか報告例がないそうです。

ところが,筋ジストロフィーは異常ホルモンが原因で筋組織が次々と自身の免疫によって破壊される病気だそうで、まずほとんどの人は血中のCPKと呼ばれる値が異常に高いのだそうですが、私の場合は正常値内でした。
さらに筋肉というのは腕や足だけでなく心臓等の内蔵を含めた全身の筋肉が含まれ、これらが機能不全もしくは機能停止するため、30半ばには既に死亡、そこまで至らない場合でも、少なくとも車いす生活を余儀なくされるほどの重症になっています。
私の場合、心臓外科で確認してもらった所、心音は確実に筋ジストロフィーのものではないと専門家の先生方は断言されました(筋ジストロフィーの心音は普通に聴診器を当てただけで分かるほどヒドいものだそうです。更に、筋ジストロフィーの人は顔面の筋肉が縮退する為に表情がおかしくなり、加えて前頭部からの若はげになるのだそうですが、私は30半ばでよく笑ってますし、一応頭もフサフサを保ってます)。


すると、私のものは筋ジストロフィーに似た症状を呈するかなり変わったベッカー病か、もしくは違うもの(新種?)の可能性しかありません。


とりあえず分かっている事は、筋肉を分析した結果、チャネル病の一種である事はおそらく間違いがない事、目にかなり変わった白内障の兆しがある事、ベッカー病に近い自覚症状を呈している事です。

しかし、最終的にどの病気であるかを決めるには、どうしても遺伝子検査が必要となるんですが、私の入っている保険はそのポリシー上、遺伝子検査はどうしても認可できず、補助は全く下りないそうです。
遺伝子検査は疑われる病気ごとに1つずつ必要で、1つ当たり日本円で約15万円します。
先生方が疑われている病気は計4つですので、合計60万円必要となり、保険の補助なしにはとても受けられるものではありません。

なにより病名が判明しても、チャネル病自体が治療不可能なので、どうしようにもありません(ただし、塩素イオン系のチャネル病に属するミオトニー症候群は、全身麻酔を受けると非常に高い確率で悪性高熱症を併発するそうです。この悪性高熱症は体温が42度以上に急上昇して全身の筋肉が硬直して死亡する原因不明の症状で、致死率は約20%弱程度だそうですので、これを避ける事ができるというだけで、一応調べた意味はあったという事になるかと思います)。

なので、とりあえず今回はこれでひとまず病院通いをあきらめ、何か別の機会に続きを調べる事にしました。



しかし、発症率0.001%の病気に引っかかるとは...



同じ確率で何かに引っかかるんだったら、年末ジャンボ宝くじの方が全然よかったのになぁ:苦笑




そうそう、実は私、高校時代にこの症状で実家から近い北里大学病院へ出向いています。
このときは神経外科やら内科やら脳外科やらに回された後、結局何も見つからずに精神科送りにされています。
最初こっちでOHSUの先生にベッカー病っぽいよって言われた時、思わず『北里=ヤブ医者の集まり』とか考えたんですが、この病気、まともに日本で研究されるようになったのは実は去年だったようです

そら、10年以上前になんて、誰も知る訳ありませんよね:苦笑

いやー、根っからの新し物好きでなんで、無意識のうちに体が時代を先取りしすぎましたかね?私。



あーっはっはっは...



って、笑えねー...



p.s.

そのうちギーク・ネタとして、私の調べた資料を基に、詳細な内容を近々アップしておきます。
ただでさえ日本で知られていない上、出てくる資料、出てくる資料、全部英語ばかりなので、同じような症状を抱えていても自分がそうであると分かる事なく苦しんでいる人もおられるかと思いますんで。


p.p.s.

東京都からは難病医療費等助成対象疾病に指定されているようです。トムゼン病のみ明記されていますが、実は似たような症状には他に2種類あり、一つは上述のベッカー病、更に別のレビアー(myotonia levior)と呼ばれる亜種が存在するそうです。後日詳細な内容は参考資料と共に記載する予定でいます。


p.p.p.s.

ギークネタとして、アップしました。
詳しくはこちらを参照なさってください。

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